近未来予測2025を読んでのまとめ感想 第3章 未来の覇権

この本から得るもの

 

著者

ティム・ジョーンズ & キャメロン・デューイング

訳:江口 泰子

出版

2018/5/25

第3章 未来の覇権

  世界を舞台に大きな変化が起きている。そしてその変化は誰が、どこで、どのようにして力を生み出し、行使するのかという問題に影響を及ぼす。誰にとっても関心が高いのは次の2つだろう。第1に中国とインドが影響力を増し、世界の大黒として再び浮上するのか。第2にアフリカ諸国は今後、経済的に政治的にどんな役割を担うのか。21世紀は中国の世紀になるのか。広範なアジア諸国が協力し合って世界を引率するのか。それとも、引き続きアメリカが世界の覇者たる地位を守り抜くのか。未来の覇者を決めるのは、安全保障か技術か、それとも貿易だろうか。

 それと同時に、中央政府の役割と権力に影響を及ぼす。国家が国家同士でパートナーを組むのに対して、民間部門は都市とパートナーを組む傾向がある。中央政府よりも市長の方が、重要な地位を占める都市もある。

 モノのインターネット(IoT)が現実のものとなり、技術に対する依存度が高まるにつれ、データセキュリティとデータ所有権の問題に懸念が広がる。データには国境がない。また電力供給をめぐる根本的な変化に、エネルギー貯蔵という基本的な問題に関心の高い者もいるだろう。

 これらの重要な問題に共通して明らかなのは、影響力をどう行使するかという問題と同じくらい、影響力の性質そのものも変化しつつあることだ。私たちが向かうのは、断片化する一方、ますます繋がりあう世界である。本章では「未来の覇権」について考察する。

 

権力と影響力の移動

 経済力の重心はさらに東へと移動して、200年前の重心地に近い場所に戻る。近年の超大国は変化の速度を抑えようとするが、膨大な人口を抱え天然資源が豊富な場所というふたつの事実は動かしようがない。

  未来の影響力を語る時、どんな見方をするにしろ重要なのは「地政学」「グローバリゼーション」「超大国の果たす役割」にまつわるマクロ的な見通しについて、さまざまに言われている内容をうまく要約することだろう。たとえば、私たちがいま目にしているのは、グローバリゼーションと国際貿易が終焉する時代だろうか。第二次世界大戦後に成立した体制はもはや時代遅れになり、2015年の時点で目的にかなっているようには見えない。あちこちで調整が進行中だ。西洋市場は勢いを失い、平和の調停者や番人として行動するというアメリカの意欲も衰えた。欧州はEUという組織上の問題に直面している。若い労働人口とミドルクラスの勃興によって大きな恩恵を被るアジア諸国は、国際貿易に影響を及ぼし始めたばかりか、外交の舞台でも重要な役割を担い始めた。今はまだ影響力の小さなアフリカと南米も、豊富な天然資源を武器に、2025年頃から変化が表れているはずだ。

 21世紀はアジアの世紀だという者がいる。それが本当であろうとなかろうと2025年になるころには、第二次世界大戦後に栄えた交易路は勢いを失い、代わりにインド洋地域の貿易が盛んになる。2000年からの10年間で2倍に増えた南南貿易(途上国どうしの貿易)は、2025年には世界貿易の3分の1を上回るとみられる。

 何世紀も続けてきた欧州の経済力は、相対的に衰退すると予想するものは多い。次の3つの未来像を予測する者もいる。第一に、ユーロ圏2つに、おそらく北と南に分裂する。第二に、ドイツマルクやイタリアリラなどの主要通貨が復活する。第三に。ユーロ圏は完全に解体して各国の通貨が復活し、これまでの経済的影響力も分散する。

 インドには有利な特徴がたくさんある。人口ピラミッドは理想的で、国内市場は大規模だ。ミドルクラスは増加し、国内に本拠を置く多国籍企業は成長著しく、資源確保のために領土を拡大する意図もない。IT分野では世界クラスの専門知識を誇り、生産工程でのイノベーションにも意欲的だ。つまり、インドは世界でトップ3の経済大国になる可能性が高い。しかし、ビジネスの相手としてはリスクが高いとみなす声も多い。インフラは当てにならず、インドでは当たり前の賄賂や汚職も大きな障害というわけだ。

 中国経済も今後は高い経済成長を維持できないと考える者もいる。とりわけ一人っ子政策の影響による、いびつな人口ピラミッドの形を見ればそう考えるのも無理はない。

 南米に目を向ければ、ブラジルの運命は中国のコモディティ(商品)ブームの縮小に影響され、2025年になるころには、その経済成長は年3%を下回ると予想される。またチリやペルー、メキシコは環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が発行すれば、恩恵を受けるだろう。その反面、内向き思考のアルゼンチンは次から次へと襲う危機につまずいているように見える。

 アメリカについて言えば、中国が世界人口の20%を占め、世界のGDPの約14%を生み出すのに対して、アメリカは世界人口の6%を占め、世界のGDP20%を生み出している。貿易とエネルギーの分野で自給率の高まるアメリカが、果して今後も世界の海の警察役を引き受け、国際貿易のルートを守ると"確約"するだろうか。数10年先には、アメリカの外交政策と経済影響が大きく後退している可能性がある。

 

中国崇拝

 中国が今後も経済的な影響力を及ぼすのに伴い、世界のあちこちの人々の間で”中国崇拝”が高まる。そしてその文化的な影響力が増すにつれ、中国に対する期待と恐れが急速に広まる。

 中国は世界を救うのか、それとも破滅に導くのか、その二択しかないかのようだ。

 中国の消費力が持つ重要性について、今さら指摘するまでもない。中国での売り上げがアップルの株価を左右する。全ウーバーの営業の3割を占めるのも中国だ。中国の消費者は、本場スコットランドの住民よりも高級なウィスキーを飲み、ハリウッド映画の成否さえも握る。

 もっと小さな企業にとって、中国は一気に売り上げを確保できる市場かもしれない。

 世界で最も二酸化炭素の排出量が多いのは中国だ。その一方で再生可能エネルギー技術の投資額も世界一であり、中国は今では太陽光と風力で世界最大の発電量を誇る。

 海外企業のためにせっせと製品を量産する”世界の工場”という役割を脱して、思うがままに競争する革新的な生産国に変わったことを、懸念すべき兆候とみなすものもいる。独占禁止法に反する慣行、知的財産権の侵害、特許権の侵害、保護貿易主義的な国家政策。これらのせいで、中国市場にアクセスするのは難しいと思うものも多い。だが、世界は新たなプレイヤーを必要としているとみなす者もいる。イノベーションを推進し、斬新的なアイデアを提案し、想像力に富んだ投資を行い、既存の多国籍企業の寡占状態に果敢に攻め込んでいく。今の世界が必要としているのは、まさにそういったタイプのプレイヤーというわけだ。

 政治的な影響力(それを支えるのは軍事力)を放つ中国の存在感を多くのものが懸念する。彼らが指摘するのは、領土拡大主義的な行動であり、サイバーセキュリティやデータプライバシーを脅かす慣行であり、人権擁護活動に対する容赦ない弾圧であり、自国の資源消費に対する「パンがなければ、ケーキを食べさせておけ」とでも言うような無知で鈍感な態度である。そうかと思うと、年配を敬う儒教的な態度や献身的とされる労働倫理、比較的視野の狭い外交政策に光を当てる者もいる。そして、中国が世界に与える、もっと良いほうの影響に目を留めるのだ。

 

アフリカの経済成長

 2005~2015年、中国のようにアフリカも都市化し、欧州のような人口が100万人を超える都市も多い。人口は増加し、アフリカ全体で20憶人に向かうとみられ、およそ五億人のミドルクラス消費が誕生して大きな影響を与えることになるだろう。

 アフリカの経済成長を長年支えてきたのは、コモディティ(商品)価格である。アフリカ大陸は地球上の鉱物資源の三分の一を、世界の原油埋蔵量の一割保有し、ダイヤモンド原石取引の七割を独占する。

 天然資源に依存する経済から脱却すべく、他の経済部門の成長に取り組んできた国も多い。これまでのところ「製造」「サービス」「観光」の三部門で大きな成長がみられた。

 南アフリカ共和国コンゴ民主共和国は、モバイル技術とソーシャルネットワークを活用し、とりわけ金融サービスと医療分野において、国民生活を大きく変える先端的なプラットフォームを提供している点で、世界的なリーダー見られている。

 政治的立場が違っても、経済成長を目指すという共通の目的を持つ国同士で二国間協定を結ぶ機会が増え、それが大陸内の新たな貿易協定に発展に、新興の商業圏の構築につながり、インフラ投資を促していくのだ。あまり民主主義がとは言えないか独裁政権の国もあるにしろ、今の政治状態を脱却した多くの国でインフラが改善すれば、今後数年のうちに経済的にも政治的にも発展を遂げ、貿易上の障壁も解消するだろう。

 2030年までには、アフリカで大幅に都市化が進み、人口の半数が都市に暮らすようになるだろう。

 

中央政府の影響力の低下

 変化を主導する中央政府の能力は、2025年までに国の内外から強い圧力にさらされるようになる。多国籍企業がルールを決める機会が増える一方、市民が信頼を寄せ、支持するのは地域に根差した活動やネットワーク型の活動だ。

 

 それに対して、州や都市の当時に対する信頼性は増し、 信任も厚い。市民は自分たちのような人間が、目の前の問題に何かしらの影響を与えられるという自信を深めている。世界の市長は都市間ネットワークであるC40を通じて成功事例を共有し合い、権限を強化し、影響力を高めてきた。だがそれも、市民の支持や協力あってのこと。ニューヨークやロンドン、パリ、イスタンブールエクアドルのキトでも、都市がより大きな影響力を持つことについて、市民の支持は高まっている。

 統治機関による、特に市による情報公開は、地域社会とネットワークに大きな力を与えてきた。世界で最も情報公開の進んだ都市のロンドンでは、多様なプラットフォームを導入してデータ公開のイノベーションを促し、効率化の向上を図ってきた。国や地域で言えば、台湾、イギリス、デンマーク、コロンビア、フィンランドという意外な組み合わせが、2015年のオープンデータインデックスの上位5か国である。オープンデータと個人データは、市民の側から「透明性」を促していくことになると思われる。市民はオープンデータにアクセスして利用できるとともに、自分が望む個人データを共有できるようになり、データという社会的資源を活用するより良い方法を作り出していくだろう。

 市民の参加機会が増えるだけでなく、クラウドソーシングを活用した政策決定や意思決定の機会が増えると政治家の必要性はますます減るかもしれない。この傾向がこのまま続くなら、最も大きな力を手に入れるのは、インターネットでよりつながった市民である。今後は中央政府の影響力が弱まって、分散化が進む。シンガポールでは、公共サービスの提供を分散化して超地域密着型にすることで、格差の解消に役立てている。

 対する政府や規制当局は、企業との間に開いた差を必死に取り戻すべきだろう。このところ、イノベーションを起こすのは企業だ。その大半はシリコンバレーに本拠地を置き、一国を凌ぐほどの莫大な資金力と影響力を備えている。技術の進歩が社会のニーズを満たすにつれ、未来の姿を大手テクノロジー企業の動向から探ろうとする。今日、熱い注目を集めるのはアップルとアルファベットだ。アップルは自動運転(プロジェクト・タイタン)と拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の開発に取り組んでいるのは公然の秘密だ。対するアルファベットはアップルよりも情報公開し、完全自動運転やVR事業を始め、幅広い事業に取り組んでいる。シリコンバレーの巨大テック系企業が注力し、利用する資源のレベルを見れば、さまざまなことが読み取れる。今にどんな変化が実現するのか。そして、そのシステムを支配するのはその企業なのか。となると、国家はどのような形で参加するのか。技術をコントロールし、資源を提供する役割なのか。だが、グーグルやアップルのような企業はますます自分たちの事業を通して、中央政府は必要ないと告げているのだ。

 

すべてつながった世界

 2025年には、1兆を超すセンサーが複数のネットワークにつながる。接続することで利益を得るものはすべて。何か一つのデバイスやネットワークとは接続しているだろう。1万倍ものデータを100倍も効率よく伝送できるようになるのが、情報セキュリティが大きな問題となる。

 

今日、インターネットに接続している人口は世界で33億人以上にのぼる。やがて10年のうちに、世界のどこにいようとも世界人口のほとんどが接続できるようになるだろう。その変化を促すのがスマートフォンをはじめとするデバイスである。

 センサーをネットワークにつなげると、効率が上がる、廃棄が減る、未知の世界が開けるといった利点も多い反面、リスクも潜んでいる。よく考えずにあらゆるものを特にデータ保護レベルの低いデバイスまでも接続してまうことになるからだ。つまり、ケトルを接続したら、それが個人の無線LANへの裏口となり、パスワードを使わずして個人データを盗み取る扉が開いてしまうかもしれないのだ。

 ケトルやラップトップだけではなく、発電所交通機関医療機関などのあらゆるものを接続するとき、懸念されるのはプライバシーではなく安全面だ。何もかあもがオンラインにつながった世界では、悪意あるハッキングのリスクが膨大に高まる。何十億というパッシブなタグやセンサーにはハイレベルな暗号化機能がないため、悪意あるハッキングの危険性は高まる。

 あらゆるものにタグが付き、クラウドを通してつながり、システムがあらゆることを分析するとき、いったいどんなことが起こるだろうか。データ分析手法を用いて、大量のデータから有益な知識や情報を抽出し、意思決定や予測に役立てる技術については、ロサンゼルスでは街角の犯罪予知を行っている。公的及び私的な情報源から得た複数のデータの流れを活用して、ロサンゼルス警察は、実際に犯罪が発生する”前に”予測される犯行現場に警察官を派遣する。「そのアルゴリズムは一般的に”予測警備”と呼ばれることを行う。つまり、過去数年間の、場合によっては過去数十年間の半税発生データに基づいて、アルゴリズムがデータを分析し、その日にどの地域で、どんなタイプの犯罪が起こりそうかを割り出す」。

 ロサンゼルスのような大都市においてそれだけの効果があったということは、ビックデータ分析の今後の可能性を強く裏付けるとともに、近い将来あちこちの都市で導入される可能性も高まったという意味だ。未来の力を手に入れるのは、最も重要なデータを所有するか、そのデータに優先的にアクセスできるものだろう

 

個人データ保護 

  個人データ保護を積極的に推進する多くの国にとって監視が高いのは、国際規格やプロトコルを設定したり、より高い透明性を確保したりすることだが、国際的な合意から離脱して独自のやり方を選択する国もある。

 

 

 EUは、個人データ保護について強硬的な姿勢を取っている。課徴金を強化し、企業が個人データを取得する際にはユーザーの同意を得るように要求し、「データ保護・バイ・デザイン」の原則も定めた。EUのアプローチは、「プライバシーの保護は市民の基本的権利だ」という発想に立ち、トップダウンで規則を整備して一律にルールを課し、データの利用を規制するか、その利用について”明示的な”同意を得るというものだ。一方アメリカはセクトラル方式を採用し、機密性の高い情報を扱う、例えば医療やクレジットといった特定の部門において、プライバシー侵害につながるリスクを規制する。つまり、アメリカにはデータ利用にまつわる包括的な規則が少ないため、業界はより革新的な方法でサービスや開発したり展開したりできる反面、セクター(部門)の狭間に位置する業界のデータ利用については、規制を免れるといったことも起きてしまう。そろそろ規制が技術に追いつくべき時だろう。現在の個人データ保護法制は、コンピューターによって大量の個人情報が処理されるようになった、1970~80年代の状況に対処するために整備された。当時データ処理は複雑で資源集約型の作業という前提があり、それゆえ豊富な資金力を持つ大企業以外に、データ処理は不可能と考えられていた。ところが、その考えはもはや古くなった。いまは毎日5億点を超える画像が、そして毎分200時間を超える動画がアップロードされて世界中の人の目に触れる時代だ。通話も含めて人々は膨大な情報を作り出すが、その情報量もかすんでしまうほどのデジタル情報量が、毎日その彼らについて作り出されるのだ。ビッグデータのさまざまな形の技術的能力も、すでに洗練されて普及のレベルに達し、その技術的能力が提供する機会と、それらの技術が提起する社会的、倫理的な問題とのバランスの取り方について慎重な議論が必要になった。

 国内での個人データの保護に加えて、多くの政府が懸念するのは「個人データの越境移転」、すなわち自国の市民の個人データが他の国へ移転されたり、さらにはそこから別の国に移転されたりする状況である。いわゆる、スノーデン事件をきっかけとして、韓国、ロシア、インドネシアベトナム、ブラジルは、データローカリゼーション法の制定を進める。理論的に言えば、この法律によって、自国の市民のプライバシー保護と個人データのセキュリティを確保するとともに、自国(新興国)のテクノロジー産業も保護できる。だが、分散型であるインターネットの構造を考えれば、こうした要求だけでデータの越境をを阻止することはできない。事実、一部の独裁主義政権ではこれらの政策を悪用して、国内での監視を強化したり、データローカリゼーション法を通じて、国内のインターネット企業の競争力を阻害したりしている。国内のデータセンターは経済的に反映するかもしれないが、海外のインターネット企業やクラウドコンピューティングといった、安価な技術に依存している国内の他の企業にとっては、国内のコンピュータ関連施設を利用するか新たにサーバーを設置しなければならなくなり負担が大きい。将来的には、国際規格を設定することが、より現実的な解決策のように思える。

 ここにベースとなる原則がある。「国連ビジネスと人権に関する指導原則」である。それによれば、企業や他の第三者から個人が人権侵害を受けた場合、すべての国はその個人を守る義務がある。すべての国に呼び掛けているが、同意するのは簡単だが適応するのはずっと難しい。

 重要なのは、個人データ保護法を国際標準にする方法とユーザーの意識を高める方法の2点だろう。市民の同意を得られる内容を法的に定義することにより、現場の実務が明確になるだろう。企業はすでにユーザーの個人データを利用している。だがそれは、カスタマーサービスを向上するためではなく、自社の利益に結び付けるためだ、と多くの市民は不信感を募らせる。今後はインターネットのインフラに対する信頼も低下するだろう。そして、現在や過去の膨大なデータが、誰の許可も得ずに勝手に掘り出されて利用されるという懸念がますます広がるに違いない。

 

通商を促進する国際規格

  通商をめぐる国際規格は、貿易の自由化を促進し、煩雑な手続きを省いて単純化を図る方向に向かっている。だがその反面、さらに制約を課すような協定や基準、プロトコルも多い。

 

 「税関手続きを自動化しただけで、コンテナ一台につき115ドルの節約になる」と世界銀行では試算する。

 世界が国際貿易の最適化を目指すなか、貿易の自由化を推進する動きと、ますます制約を課すような動きがあり、今後の国際ルールの方向性とそれぞれに対する支持に影響を与えそうだ。国際貿易はアメリカ主導で発達してきたと言えるだろう。しかし、国際貿易においてインド洋の重要性が大西洋の重要性を脅かすようになったいま、次のような問いが持ち上がる。国際貿易のリーダーたる地位お影響力を、アメリカはどうやって維持するのか。

 TPPには環太平洋の11ヵ国が参加する。日本は参加するが中国は不参加だ。アメリカが参加すれば、財輸出の44%を、農作物の85%をTPPが取り扱う。統合的な経済圏を築き、サービス経済を成長させるルールを確立し、環太平洋に資本の流れを作るというのが、TPPの公的な目標である。だがこの協定に批判的なものは、TPPはアメリカのテクノロジー企業と銀行制度に恩恵をもたらし、国際貿易においてドルの重要性をゆるぎないものにするためだと警戒する。対する支持者の考えは違う。TPPが発行すれば、中国と貿易を行うTPP参加国のガバナンス基準を向上させることになり、ひいては、もっと国際的なルールに従うよう中国に圧力をかけれると主張する者も多い。

 EUや北米自由貿易協定(NAFTA)、将来のTPP、TTIPなどの自由貿易圏はどこも関税を撤廃するか削減するため、各国はそれぞれの国益を守るために、輸入割当やライセンス、反ダンピング規制、規格、輸入信用状、輸出補助金などを採用してきた。こうした税関手続きや技術規格、包装表示/パッケージ包装の取り決めは、貿易を直接制限するものではないが、管理上の煩雑な手続きを増やすことになり、結局は貿易を制限する方向に働いてしまう。

 自動化とシステムの効率化は、規格やプロトコルに参加しなければならず、それがますます彼らを新たなシステムの中へ引き込む。自動化の進展による大きな利益の一つは、書類仕事が減り、取引コストが削減されることだろう。とは言え、あらゆる関係者が協力し合える明確なデジタル規格を定める必要がある。となると、主導権を握るのはアメリカということになる。

 AT&T、シスコ、GE、IBM、インテルの5社が設立したインダストリアル・インターネット・コンソーシアムのような特定の部門か地域に焦点を当てた共同事業体(コンソーシアム)が設立されたことは大きな一歩だが、目的はあらゆる産業のグローバルスタンダードを設立することにある。将来的にはみな、国際的な取引主体識別コードを利用することになるだろう。

 様々な規格がなければ、どの国も全く平等な立場になるが、そのような状況はどこの国も望んではいないように思える。

 

オープン・サプライウェブ

  従来の国際的サプライチェーンにとって代わるのは、もっと現地的で消費者志向のサプライチェーンとネットワークだ。

 

 3Dプリンタは製品出荷にも変化をもたらしつつある。すでに航空宇宙部門で大きな影響を与えている3Dプリンティングは、さらに他の部門へも進出して、いまに消費者が世界の裏側から製品を取り寄せる時代が終わり、自宅で部品を3Dプリントする日がやってくるかもしれない。必要なのは、金属やプラスティックなどの材料と3Dプリンタだけだからだ。

 現地で製品を完成させる企業も増えるだろう。顧客の要望に応じて家電を最終組み立てる場合もあれば、地元のディーラーでBMWにオプションを装備する場合もあるだろう。それゆえ、最終製品の部品はもっと分散型になり、小ロットの注文になる。アマゾンはすでに、配送車の中に3Dプリンタを備え付ける特許を申請した。リアルタイムという概念が、新たな次元の扉を開いた例といえるだろう。

 このような迅速さは、幅広い選択肢を確保しておく際にも求められる。製造コストや為替変動に対してだけ、リスク管理をすればいいわけではない。サプライヤーが抱える潜在リスクに対しても、迅速に対応する必要がある。垂直統合の時代が終わりを迎え、もっと流動的な関係が生まれはじめた。企業はサプライチェーンの運営をやめて。サプライウェブを築こうとしている 。そのなかでは、クラウドを用いた情報の民主的な流れによって、パートナー、顧客、サプライヤーという3つの次元の複雑なネットワークが、鎖(チェーン)ではなく、網(ウェブ)状で機能する。

 輸送が滞る。インフラに欠落が生じた。為替が変動した。あるいは工場が閉鎖された際には、部品の調達に支障が出てしまう。企業は製品出荷を維持するために、迅速に反応するフレキシブルなネットワークを別の選択肢として用意しておく必要がある。それと同時にサプライウェブの透明性が高ければ、二次、三次仕入先も自分たちの立場を客観的な目で観察でき、もっと公平な条件で競争に加われる。世界最大の会計事務所デトロイト・トウシュ・トーマツによれば、サプライチェーンはバリューウェブに進化したというデトロイトの定義するバリューウェブは多くの点で効率がいい。コストが削減できる。サービスレベルが向上する。リスクを緩和する。学習とイノベーションを促す。さらには、新しい技術が生み出す多くのデータによって透明性が高まるため、今後はバリューウェブに向かう動きがさらに加速するかもしれない。

 このサプライウェブに参加してその資源を活用する企業は、製造、組み立て、物流の分散拠点を、短期あるいは長期契約で利用することもできる。その一方で、市場の変化に合わせて急務となる莫大な投資を行ったり、長期リース契約を結んだり、戦略的パートナーシップに参加する必要もない。企業はいっそう効率的に、世界中に製品を供給できるようになる。マーケットプレイスによって可能になったオープン・サプライウェブは規模の大小を問わず、多くの製造業者にとってプラスの選択肢に思える。

 今後は、こんな問題が重要になるはずだ。共有型のオープン・サプライウェブによって効率は向上する。この反面、競合とパートナーを組むという明らかな商業的リスクもある。この二つのバランスを、果たして企業がどう取っていくのか。だが実際、よりフレキシブルなアプローチが生む透明性と効率性が大きな魅力となって、将来的にはオープン・サプライウェブが標準になると考えるものも多い。

 

結論

 目まぐるしく変わる状況

 

 データの未来やプライバシーの未来について開いたイベントや、サイバーセキュリティ―やコネクッテッドカーを取り上げたワークショップで必ず話題にのぼったのは、データの持つ力、それも特にそのデータがふさわしい者の手にあるかどうか、についてだった。

 今後、国際的にあるいは地域レベルにおいても光が当たる多くの分野において、誰や何が主導権を握るのかについては、今のところ明らかに流動的だ。政府が企業と影響力を競い、政府がどうしが覇権を争い、ネットワークやNGOがこれまで以上に存在感を増す。2025年には、これまでの10年とは全く違う形の力が現れているかもしれない。

 

感想